埋め込みモデルの実験では、入力のどの位置に手がかりがあるかを制御しなければ、モデルの性質と語彙の性質を取り違えることがあります。今回は、実在する日本語オノマトペの語彙を数え、濁音が反復語のどの位置に現れるのかを調べました。
問いとデータ
きっかけは、別の埋め込み実験で観察された「語頭の清濁シグナルは比較的保たれるが、非初頭のシグナルは変性しやすい」という位置効果です。もし実在語彙そのものが語頭の濁音に偏っているなら、モデルの位置効果と語彙分布を分離しなければなりません。
そこで、公開されている日本語マンガ効果音の収集語彙(約1,800語)から、ひらがなに正規化したうえで、4モーラ・CV交互・促音/撥音/長音/拗音なしの語を抽出しました。そのうち、からから型のABAB反復形に該当したのは278語です。埋め込みモデルは使わず、語彙の文字列だけを集計しています。
結果:語頭と第2ユニット先頭は対称だった
| 位置 | 濁音率 | 出現数 |
|---|---|---|
| 1モーラ目(位置0) | 47.5% | 132語 |
| 2モーラ目(位置1) | 12.2% | 34語 |
| 3モーラ目(位置2) | 48.6% | 135語 |
| 4モーラ目(位置3) | 12.2% | 34語 |
反復単位の先頭にあたる位置0と位置2は、47.5%と48.6%でほぼ同じでした。対応のある比較でも有意な差は確認できず、「実在語は語頭の濁音に偏る」という前提は、この語彙集合では支持されませんでした。
さらに強かった構造:片方のユニットだけ濁らない
もっと印象的だったのは、位置0だけが濁音で位置2が清音になる語が278語中0語だったことです。濁音を含む反復語は、ほぼ次の二群に分かれていました。
- 両ユニットが同時に濁音になる語(がらがら、ざらざら、どろどろなど):132語
- 両ユニットとも清音の語(からから、さらさら、ころころなど):118語
例外は3語ありましたが、対応する全濁音形が語彙に存在しない孤立形を含みます。つまり、反復語では「片方のユニットだけを濁らせる」形が、少なくとも今回の語彙ではほぼ避けられているように見えます。これは濁音和らぎや反復形の制約と関係する可能性がありますが、今回の集計だけで音韻論的な原因まで断定することはできません。
埋め込み実験への含意
この結果は、モデル実験の解釈に小さいが重要な境界線を引きます。実語では、濁音の位置そのものが自由に変動していません。したがって、実語の清濁差を比較するとき、位置効果を独立変数として扱うのは難しく、語彙に存在する反復構造の影響を含んだ比較になります。
一方、疑似語で濁音位置を操作する実験なら、語彙側の交絡を避けてモデルの位置感度を調べられます。今回の単純な語彙集計は、派手なモデル比較ではありません。しかし、モデルの挙動を語彙の事実と混同しないための「対照条件」を作るという点で、実験の足場になります。
限界と次の確認
- 対象はマンガ効果音由来の収集語彙であり、日本語全体の無作為標本ではありません。
- 4モーラのABAB反復形に限定しているため、どんどん型など他の反復パターンは含みません。
- 「片方だけ濁る」形がモデル空間ではどのように表現されるかは、語彙統計だけでは分かりません。
次は、今回ほとんど見つからなかった「1ユニットのみ濁化」を疑似語として設計し、埋め込み空間での表現を確認する予定です。語彙にない形をあえて作ることで、モデルが音の位置をどのように扱うかを、より素直に切り出せるはずです。